第四夜
著者:shauna
夏音の話が終わり、一通り、「怖かったね〜」的なトークを終え、次は悠真の番。
手に蝋燭を持って、周りを見回し、緩やかに話を続けた。
これは・・・俺の遠い親戚の兄が実際に体験した話なんですけどね・・・
それは・・・とある大学の学園祭の後夜祭でのことでした。
全ての締めくくりとして毎年開催される・・・まあ、伝統行事でもあるダンスパーティーが例年の如く開催されたんです。
そのお兄さん・・・名前を祐樹と言うんですけど、その祐樹さんも友達に誘われて大学2年生の時に初めて参加したそうです。
入口でチケットを買い、中に入ると、すでにステージではオーケストラサークルによる生の演奏の最中で、薄暗い雰囲気のある会場内ではすでに何組かのペアが緩やかな曲調に合わせて、体を密着させながら、抱き合うようにして踊っていたそうです。
パートナーの居ない人は暗幕の張られた壁際で、まわりをキョロキョロ見渡して自分のパートナーを探していて・・・祐樹さんも自分のパートナーを探していたんですけど・・・フッとした拍子に、一緒に来ていた友達が、目ぼしい娘でも見つけたのか、どこかに行ってしまったんです。
一人残された祐樹さんは「自分も誰かと踊ろうかな」と思って一周会場内を見回したんですが・・・
その時・・・
フッ・・・
と視線を感じたんです。
誰かに見られてる。誰かが自分を見てる。
でも、周りに視線を走らせても、誰もそんな人はいなんです。
でも、確かに視線は感じる。
なんだろう・・・
祐樹さんはもう一度視線を彷徨わせた。
その時に・・・
フッとあるモノを見つけたんだそうです。
それは・・・壁に掛けられたその暗幕の下。
そこに・・・赤いハイヒールの綺麗な靴が見えて、白くて細い綺麗な足首が見える。
「ああ・・・なるほど・・・いい感じになったカップルが暗幕の裏で、抱き合いながらキスでもしてるんだろう・・・」
そう思ったそうなんですが・・・もう一度見てみると・・・
男の人の靴が無いんです。
あれ?おかしいな?と思ったそうですが、
「ああ・・・そうか・・・きっと暗幕の裏でこのフロアの誰かを見てるんだろうな・・・」
と思って納得しました。
え・・・
「いや、待てよ。もしかして、自分が見られていると思った視線。あれってもしかして・・・あの子のものなのかな・・・」
なんだか興味が湧いた祐樹さんは、その女の人の顔が見たくなって、その暗幕の所に行ってみたんです。
多分向こうからこっちは見えているだろうから、
「ねえ・・・何してるの?」
祐樹さんがそう声を掛けると、
「フフッ・・・」
笑い声が聞こえたんです。
「よかったら一緒に踊ってくれない?」
暗幕の裏でしたけど、どうにかその背丈と顔の位置がわかったそうです。
なので、祐樹さんは視線をその顔の位置に送って、そう誘うと、また・・・
「ウフフ・・・ウフフフフフッ・・・」
また笑った。
これは上手く行くかもしれない。
「じゃあ、こっち来てよ。顔みたいからさ・・・」
そう祐樹さんが言うと・・・
「アトデネ・・・」
女の人が初めて喋った。
その声は暗幕を通しているせいか、少しハスキーだったけれど、とっても綺麗な声だったそうです。
でも後でか・・・
「今じゃダメなの?」
祐樹さんがそう尋ね返すと・・・
「多分・・・私ヲ見タラ、貴方、普通ジャ居ラレナイワヨ。」
と言い返した。
自分で普通じゃ居られないと言うぐらいなんだから、きっとかなりの美人に違いない。
祐樹さんは女の人の言う事に納得して、
「わかった。それじゃ、今は見ないよ。でもさ・・・これならいいかな?」
そう言ってフザケ半分に、暗幕の上から、両手で、女の人の顔を触ろうとゆっくり両手の距離を狭めていったら・・・
待っていた肌の感覚はいつまでも訪れることなく、ペシャッと両手が合わさって、潰れてしまったんだそうです。
「えっ・・・なんだこれ・・・」
あまりの出来事に呆然としていると、
「おい・・・お前そんな所で一人で何しているんだよ・・・」
一緒に来た友達が後ろから尋ねた。
「いやさ・・・今、彼女と話をしてさ・・・」
祐樹さんがそう言うと、その友達は首を傾げ、
「え?・・・女なんてみなかったぜ?」
「いやいや・・・この暗幕の裏に居てさ・・・」
そう言って祐樹さんが視線を下げると・・・
そこにはあったはずの靴がありませんでした。
「あれ?おかしいな・・・」
試しに暗幕を掴んでスッと捲ってみたそうなんですが、そこには壁があるだけで、誰もいなかったそうです。
「いやさ・・・実は俺、今・・・」
祐樹さんはその友達に今、起こった出来事を、全部話したそうです。
そうすると、その一緒に居た友達の顔色が段々青ざめて、
「・・・お前、それ・・・ヤバイぞ・・・」
友達は話を続けました。
「いや、何年か前にな・・・この後夜祭のダンスパーティーの会場で・・・なんか・・・カップルが知り合ってさ・・・意気投合して、2人でガンガン酒を飲んだらしいんだよ。でさ・・・その内、2人とも一気飲みするようになって、2人ともバカみたいに酔っぱらったらしいんだ。でさ・・・そのうち男の方が、自分の車で彼女を送って行くって言い出したらしいんだ・・・でも、当然飲酒運転だし、酔っぱらって右も左もわからない状態だったから、周りはみんな止めたらしいんだけど、聞く耳もたなかったらしいんだ。
で・・・結局、彼女を乗せて、男は車を走らせたらしいんだ・・・その車は猛スピードで走って行って・・・そして・・・高速道路との立体交差の橋脚にな・・・車は激突したんらしいんだ・・・車はグチャグチャに潰れてな・・・2人とも即死だったそうだ・・・その潰れた車の中から、真っ赤なハイヒールを履いた彼女の足だけが出てたそうだけどな・・・彼女の体で原形をとどめていたのは・・・膝から下の足だけだったんだってさ・・・」
えっ・・・
「それで・・・足しか見せないのか?」
「ああ・・・そうらしい。」
祐樹さんの問いかけに、友達はそう応えた。
「お前・・・それ・・・誰から聞いたんだ?」
「ん?今一緒に踊ってた彼女が教えてくれたんだ。この大学の七不思議の一つだってさ・・・
でな・・・彼女はダンスのパートナーを探しに、毎年この会場に来るんだってさ・・・」
「えっ・・・」
「気をつけろよ・・・今年はお前が・・・パートナーかも知れないぞ・・・」
祐樹さんが思っているよりもその友達の方はさほど深刻には思っていなかったらしいです。
でも、祐樹さんも流石に怖くなってしまって・・・
なんだか気持ちが悪くなってきたそうです・・・
今でも彼女にどこかから見られている気がして・・・
「・・・悪い・・・俺さ・・・具合悪くなってきたから、先帰るわ。」
祐樹さんは友達にそう言って、ダンスパーティーの会場を後にしたそうです。
外に出ると、時刻が既に0時を回っていたこともあり、辺りは暗闇に包まれていました。
祐樹さんは大学まで自動車通学をしていたので、駐車場まで歩いたそうです。
ドアを開けて、車に乗り込んで空を見上げると、今にも雨が降り出しそうな陰気な天気だったそうです。
ドアを閉めて、エンジンをかけて、車を走らせました。
駐車場を出て、校門を出て、家への帰路をいつも通り走りました。
その道は、街灯も殆ど無くて、ヘッドライトだけが道を照らしていたそうです。
車の調子はいつも通りで、いつもの帰り道と何ら変わった所はありませんでした。
だた、何だか体が重いことを除いては・・・
それだけではありません。妙にゾクゾクしたそうです。
背筋が異様に冷っとして、全身から脂汗が出てくる。
「はぁ〜・・・嫌な娘にかかわっちゃったな〜・・・やっぱり誘われたからってついていくんじゃ無かったな〜・・・」
一年生の時に断ったことも重なって、祐樹さんはそんな愚痴を言いながら、車を走らせ続けました。
やがて・・・
ヘッドライトの差す前方に、うっすらと高速道路の橋脚が見えてきました。
車は走っているので、当たり前ですが、橋脚はゆっくりと近づいてきます。
気が付くと、いつも安全運転のはずの祐樹さんの車はかなりのスピードで走っていました。
「あれ?・・・思ったよりスピード出てるな・・・」
それは本人でも気が付かない内に・・・
「少し遅くしようかな・・・」
祐樹さんはそう思って、ゆっくりとブレーキペダルを踏み、シフトレバーに静かに手を掛けました。
すると・・・
視線の先に何か動くものが映った。だから祐樹さんは、車を止めようとして、スッと助手席を見たら・・・
―!!!!!!!!―
一気に背筋が凍りついて、一時的に呼吸が止まった。
居る・・・・
女が居る・・・・・
女が乗ってる・・・・
いつの間にか乗っているんです。
「うぅぅうああ・・・」
助手席の床に、真っ赤なハイヒールを履いた白い女の足首が見えたそうです。
―!!!!!!!!!!!!!―
祐樹さんの体が凍りつきました。
車は相変わらず走っている。
橋脚が段々と迫ってきた。
「ウフフ・・・ウフフフフフッ」
聞き覚えのある笑い声が響いた。
尚も橋脚は迫ってくる。
「ソンナニ私ガ見タイ?」
「見タラ多分、貴方・・・普通ジャ居ラレナイワヨ・・・」
女の囁く声がして、思わず祐樹さんが、フッと横の助手席を見ると・・・
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
大声で悲鳴をあげました。
なんとそこには・・・・
グチャグチャに潰れた肉の塊が座席に張り付いていて・・・
口と思われる部分だけが、パコパコと動いていたそうです。
「ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
目の前には橋脚が迫って来て、コントロールを失った車はそこにガーーーン!!!と激突しました。
それからどのぐらいの時間が経ったのか・・・
「おい・・・今年もまた学生だよ・・・」
そんな声に、祐樹さんはフッと目を覚ましました。
気が付くと自分は担架で救急車に運ばれていたそうです。
どうやら、その年は・・・祐樹さんがパートナーだったようです・・・
話を終えて、悠真は静かに蝋燭をフッと吹き消した。
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